いま私のいる研究センターに「中国の市民社会」について研究している人がいる。会うたびに「ガンズの新しいアルバムどう思う?」と言いたくなるのだが、こらえている。


中学の同級生たちは、みんなガンズとターミネーターに夢中だった。それなりに田舎だったので「グランジ」なんてなかった。こういうのを聞かなきゃいけないのかな、それにしても甲高いなと思っていた。


高校に入って最初に話をした人に「おい、お前どんな音楽聴く?」と聞かれた(本当にそんな口調だった)。そんなことを聞かれたのは初めてだったので、驚いてしどろもどろになってしまった。なんと答えたのか、さっぱり覚えていない。


この出来事はあまりにショックだったので、それからは毎週日曜日の昼にFMラジオでやっているカウントダウン番組をかかさず聞くようになった。100位から1位まで、ずっと聞いていた。世の中に音楽雑誌というものがあるのを知ったのはそのすぐ後で、ちょくちょく本屋で立ち読みをするようになった。「どんな音楽聴く?」と聞かれた時に、すぐに答えられるようになろうと思っていた。


だんだん洋楽に詳しくなってきた私は、今度は、かえって音楽が話題になるのを怖がるようになった。それなりに田舎だったので「オルタナティブ」なんて知っている同級生は誰もいなかったのだ。負のスパイラルである。


そんな風にして私に音楽を聴くきっかけを与えた彼が長渕剛のファンだと知ったのは2年後のことだ。長渕なのか、と思ったことは否めない。